セプトのゲルマラジオ

カドラのゲルマラジオと3本のバーアンテナ
カドラのゲルマラジオに、バーアンテナを3本プラスします。

同調回路で使用するバーアンテナは同調コイルとして働きますが、その名のとおり、アンテナとしても同時に機能します。 この場合、外部アンテナやアースを用いずにゲルマラジオで受信するならば、バーアンテナの数が多いほど、感度が高くなると期待できます。 実際、バーアンテナ4本を使用したカドラのゲルマラジオは、バーアンテナ1本のゲルマラジオより出力電圧が高く、感度も高いと言えます。 当然、「バーアンテナの数をもっと増やせば更に感度が高くなるかも!?」と思ってしまいますよね?  興味本位で、バーアンテナをさらに増やして試作してみましょう。

改めて手持ちの部品箱を確認すると、未開封のバーアンテナPA-63Rを3本発見。 カドラのゲルマラジオで使用した4本も含めて、合計7本で試作します。 公称値が1本360μHだから7本で2520μH。これにFM用ポリバリコン(20pF×2)を組み合わせれば、中波をカバーできます。 と言うことで、カドラのゲルマラジオは次作のため、発展的に分解することにしました。

バーアンテナPA-63R

バーアンテナPA-63Rと取扱説明書定
バーアンテナPA-63Rの取扱説明書は、時とともに変化しています。

国内で流通しているストレートラジオ用のバーアンテナで、PA-63Rは定番の1つと言えるでしょう。 特に、固定用の金属ロッドを備えた構造は、他の製品には見られないPA-63Rの特徴です。 PA-63Rを購入すると取扱説明書が付いてきますが、改めて確認すると手元に3種類ありました(記憶では、もう1種類、B5判で半紙のような薄い紙の取説もあったような??)。 時を経るごとに、取扱説明書の大きさが段々と小さくなっており、この間の景気変動を振り返ると、なにやら感慨深い物を感じてしまいます。

バーアンテナ同士の接近による干渉

バーアンテナ同士の接近によるインダクタンスの測定
大理石の上に載せたバーアンテナを少しずつ近付けてインダクタンスを測定
バーアンテナ同士の接近によるインダクタンスの変化
距離はコアの中心を基準。7.5mmは表面のコイル同士が接触状態である。

バーアンテナ同士を近付けると、どのような影響があるのでしょうか。 磁気的に結合すると特性が変化しますよね。 今回はPA-63Rを7本使用しますが、管理人CRLとしては、できればコンパクトに仕上げたい嗜好があるし、ラグ板に取り付ける都合も考えたいところです。

PA-63R同士を平行に接近させて干渉状況を確認したところ、20mmまで近付けるとインダクタンスに変化が現れます。 7.5mmはバーアンテナ同士が接触するまで近付けた状態であり、インダクタンスが38%も上昇してしまいました。 用意したラグ板の大きさや、ラグのピッチを考えると、ここはチョット妥協して、15mm間隔にバーアンテナを配置することにします。

PA-63Rの特性

前項のグラフを見て気付かれましたか?  取扱説明書には「360μH」と記載されていますが、実測値は下回っています。 7本あるPA-63Rのインダクタンスを測定したところ、平均304μH程度であり、360μHより約15%低い値です。 低い周波数の局を受信する場合は、バリコンの容量が不足していないか、確認した方が良いでしょう。

ちなみに、PA-63Rはハニカム巻きのため分かりにくいですが、巻き方向は7本とも同じであることを、コンパス(方位磁針)を使って電磁気的に確認しました。 見た目には巻き数も同じようなので、インダクタンスのばらつきは、主にコアに対するコイルの位置によって生じている印象を受けます。

もうひとつ、自己共振周波数も測定してみました。 分布容量は1.3〜1.4pFになります。 中波用のバーアンテナですが、性能に目をつむれば理論上、8MHz近くまで受信できる可能性があるようです。

PA-63Rインダクタンス[μH]自己共振周波数
[MHz]
黄―黒緑―黒白―黒
306.6895.108.907.708
305.9195.849.097.939
301.2393.258.598.038
308.7095.999.747.615
296.6488.607.607.946
304.1594.668.807.853
303.9393.888.758.021
平均303.8993.908.787.874

測定はポケットL/CメーターキットVer.2(ストロベリー・リナックス)、DMC-230S2(三田無線研究所)を使用

バーアンテナの自己共振周波数測定
バーアンテナの自己共振周波数を測定中

バーアンテナのタップ処理

タップ未処理でPA-63Rをラグ板に固定
タップが密集すると、ショートやバーアンテナ間の干渉が心配
タップ処理済みのPA-63Rをラグ板に固定
タップを短く処理。これなら心配ないでしょう。

ラグ板にPA-63Rを取り付けてみたのですが、タップが長すぎて綺麗ではありません。 これではタップ間でショート(短絡)したり、タップが他のバーに接近してバーアンテナの干渉が増えるかもしれません。 タップを短く処理しましょう。

バーアンテナPA-63Rのタップ
バーアンテナのタップは、コイルの途中で電線をねじり出したもの。
バーアンテナのタップをはんだ処理
バーアンテナのタップを切断するには、半田づけが必要

バーアンテナのタップの正体は、コイルを巻いている電線を途中でねじり出したものです。 タップは1本の電線のように見えますが、都合、2本分の電線がねじれた状態に加工されているのです。 そのため、単にタップを切断してしまうと、電線は途中で切り離されてしまい、電気的に断線状態になります。 断線トラブルを防ぐため、切断箇所を半田付けして電気的に接続させておきましょう。 タップの被覆は、はんだこての熱で簡単に失われますので、通常の半田付けと同じ要領の作業になります。 念のため、半田付けで電気的に接続されたかどうか、テスターで確認してからニッパーで切断しましょう。

7本のバーアンテナで性能向上

回路構成ですが、アンテナ回路はコンセプト上、外部アンテナとアースは使わないこととします。 アンテナ兼同調コイルとしてPA-63Rを7本直列に、FM用2連ポリバリコンは並列にして同調回路を構成します。 検波回路のダイオードですが、「カドラのゲルマラジオ」の検討実験時に使った黒色プラスチックに入れたものを再利用します。 出力回路は管理人の好みで、いつものようにイヤホンジャックを用いて、イヤホンに接続します。 以上の回路を、100円均一ショップで売られていた、A6判のプラスチックケースに組み込んで完成です。

セプトのゲルマラジオ回路図
セプトのゲルマラジオ
セプトのゲルマラジオ

「セプト」は「カドラ」より高性能であることが期待されるので、ぜひ受信実験したいところです。 以前、小型バーアンテナ単独の受信性能で受信できなかった、2キロメートル周辺でフィールド実験を行いました。 すると、おおっ!聞こえます! バーアンテナ1本だけでは無理ですが、7本揃うと受信可能です。 音量はやや弱いですが、MCのトークも全て聞き取れます。 外部アンテナも使わず、このコンパクトさでゲルマラジオの受信に成功できて、素直に感激した瞬間でした。

セプトのゲルマラジオ受信実験
受信成功。NHK(5kW、2.4km先)、KNB(5kW、1.9km先)のアンテナ塔があるのですが、
くもり空でハッキリ撮影できず残念

更なる向上策は贅沢?

1本より4本、4本より7本と、バーアンテナを増やすとアンテナ性能が向上し、ゲルマラジオは高感度になる傾向があります。 ダイヤル操作をポリバリコン1つで行うことを条件にすれば、FM用2連ポリバリコン(20pF×2)を直列にして10pF相当のバリコンとして扱います。 これで理論上は、PA-63Rを直列に30本くらいまで増加できるでしょう。

正直、ゲルマラジオは無電源でずっと使用できるメリット等はありますが、トランジスタラジオのようにスピーカーを大音量で鳴らしたり、遠距離受信もできませんので、費用対効果比(コストパフォーマンス)は悪いです。 特に、バーアンテナを重視した作品の場合、製作費用が高騰します。 バーアンテナ1本を仮に300円とした場合、セプトのゲルマラジオでは2100円必要です。 30本も使うと9000円に・・・・市販のラジオでもかなり性能の良い物が購入できる価格になります。 興味や夢を求めて試作にチャレンジするか、コストパフォーマンスを冷静に見つめるか、人によって分かれるでしょう。 学生さんにはキツイ金額の人もいるでしょうが、社会人が車やゴルフを趣味にして投資した場合のことを考えれば、ゲルマラジオの製作費用など安い部類に入ると管理人は感じています。 でも、9000円なら市販のラジオ、魅力的ですよね(笑)