FMゲルマラジオ・モデル3

FMゲルマラジオもアンテナは重要ですから、できるだけ性能の良いアンテナを準備したいところです。 実際に自作や運用が可能なものとして、全国では1λループ、ダイポール、2〜5素子の八木アンテナなどの使用例があります。 しかし、それらの大きさは2メートル程度を必要とするため、扱いは結構面倒なモノになります。 それに引き換え、増幅回路を持つ一般のFMラジオでは、ロッドアンテナが使われています。 ロッドアンテナは伸縮可能ですから、必要に応じて伸ばし、使わないときは短くできるので、取り扱いも簡単です。 もっと手軽にFMゲルマラジオを楽しむため、今回は近距離用と割り切って、ロッドアンテナを使用したラジオを試作してみました。

FMゲルマラジオ・モデル3
ラジオ本体とアンテナが一体化したFMゲルマラジオです。
FMゲルマラジオ・モデル3
ロッドアンテナを2本搭載、手軽に持ち歩くことが可能。
FMゲルマラジオ・モデル3の回路図
FMゲルマラジオ・モデル3の回路図

短いロッドアンテナを使用する方法

手軽でも利得の良いアンテナを目指し、ロッドアンテナ2本を使用して半波長ダイポールアンテナを構成することにします。 そうすると、ロッドアンテナ1本の長さはλ/4となり、0.83〜1メートルを必要としますが、これほどの長さがあるロッドアンテナの流通量は少なく、購入は可能ですが手間取ることもあります。 全長が長いほど、伸縮時も長くなる傾向があるようです。 購入できた製品の中から、伸縮差の大きいアンテナ(全長83cm、伸縮時9.6cm、12段)を使うことにしました。

ロッドアンテナの固定
ロッドアンテナは直接ケースに固定せず、端子台にネジ止めすることにします。

FCZコイルとスイッチを一体配置
延長コイル、同調コイルとして使うFCZコイルは、
エポキシボンドでスイッチと接着しました。

運よく90MHz程度で共振できるロッドアンテナを確保できましたが、共振周波数と受信したいFM放送の周波数が異なります。 このままでも受信は可能でしょうが、効率を上げるため、チョット工夫します。 実は、現物の長さ(物理長)は短くても、波長の長い電波に共振できるよう電気的な長さ(電気長)を長くする方法があります。 それは、短いアンテナにコイルを追加すればよいのです。 このようなコイルは延長コイル、又はローディングコイルと呼ばれています。 この方法は共振に本来必要な長さを持ったアンテナと比較すると、若干の損失は免れませんが、延長コイルを追加すれば共振が可能になり、受信の効率が改善できます。

ちなみに、コイルを追加することで必要とするアンテナの全長を短縮できると解釈したのでしょうか、延長コイルを短縮コイルと呼ぶ方を散見しますが、無線工学では延長コイルが正しい名称です。見た目の変化より、電気的な振る舞いの表現を優先した名称なのです。

ポータブル・FMゲルマラジオはヘッドホンで!

一般の人にとって、セラミックイヤホンは馴染みの薄い製品であり、音質の良いFM放送を楽しむにはオーディオ用のヘッドホンが適しています。 近距離用と割り切れば、それなりに強い電波の受信が期待できるので、ヘッドホンを使って受信にチャレンジしてみましょう。 構成は色々と考えられますが、この試作では復調にスロープ検波を2つ備えることで、ステレオヘッドホンを鳴らす左右2つの音声信号を得ます。 この構成では、通常は切り捨てている信号も出力として活用できますが、2つの音声信号は位相が異なるので、位相を反転させるスイッチを追加し、好みに合わせて切り替えるようにします。

また、使いたいヘッドホンは16Ωと低インピーダンスのため、復調後にインピーダンス変換が必要となるのでトランスを利用します。 使用するトランスを選ぶため、FMトランスミッターの信号をFMゲルマラジオ・モデル2で受信してトランス切替BOXを使って聞き比べたところ、ST−14(500kΩ:1kΩ)が最も音量が大きく、次にST−16(300kΩ:1kΩ)、ST−12(100kΩ:1kΩ)が大きい結果を得ました。 トランス2次側の公称値が1kΩであり、ヘッドホンとミスマッチしていますが、試した限りでは、トランスを2段組み合わせて8Ωまで変換してしまうと損失が大きく、トランスを1段だけにとどめると音量が大きいという結果になりました。 音量はセラミックイヤホンと同程度は確保できるので、ミスマッチは妥協することにしました。

FMゲルマラジオ・モデル3の内部構造
ダイオードとトランスの固定には5Pの平ラグを利用しました。
ポリバリコンは、中波のスーパー用です。
FMゲルマラジオ・モデル3の内部構造
スロープ検波後、トランスでインピーダンス変換し、ステレオヘッドホンで受信します。

FM放送をステレオ受信できるゲルマラジオ?

受信方法ですが、受信場所の状況に合わせてロッドアンテナを操作することが求められます。ロッドの長さ、角度を変化させて、水平ダイポールやV型ダイポールの形態を試します。ダイポールは指向性があるので、アンテナの向きも大切です。延長コイルにFCZコイルを使ったことで、ローディングは2段階の調節が可能です。

FMトランスミッターの信号を受信して確認したのですが、音の位相は左右同相だと自然な感じで聞きやすいのですが、あえて異相にすると擬似的な音の広がりが得られ、錯覚を起こしてステレオっぽく聞こえてしまいます。

大きなアンテナを持ち歩くことを前提としたこれまでの作品と比較すれば、アンテナも含めてラジオ本体が片手に乗るほどコンパクトになり、扱いはとても簡単になりました。 また、ステレオヘッドホンを使うことで、イヤホンより良い音質で、FM放送が楽しめます。

FMゲルマラジオ・モデル3
赤色のスイッチが延長コイルの切り替え、黒色のスイッチは位相切り替えです。
音の広がり感があると錯覚し、ステレオを聞いている感覚になります。
FMゲルマラジオ・モデル3
受信場所の状況によってロッドアンテナの長さや角度、
インダクタンスを切り替えてアンテナを共振させます。

アンテナの調整は根気強く

後日、放送塔に近接した場所において、FM放送(FM富山、82.7MHz、1kW)の受信に成功しました。 ロッドアンテナを一杯に伸ばして受信できるのはもちろん、30cmまで短くしても受信することができました。 ただし、水平ダイポールからV型ダイポールへと、ロッドの角度など調整が必要であり、フィールド実験で何カ所も移動して試すには、根気強さも必要となってきます。 それと、この試作品は近距離用だと感じました。ラジオ本体とアンテナを一体化したことから、運用上、アンテナ地上高が低くなりがちなため、受信性能を悪化させているようです。

ステレオヘッドホンの使用は両耳で受信するため、放送内容も聞き取りやすく良いものです。擬似FMステレオの受信は、モノラル受信とは明らかに異なる音響であり、違和感を感じつつも音の奥行き感が面白いものでした。
(2011/04/24追記)

FMゲルマラジオ・モデル3
持ち運びも楽で、擬似ステレオの体験も面白いです。
延長コイルを切り替えると共振がずれて音量が激減します。
FMゲルマラジオ・モデル3
30cmに短くしても受信可能。ロッドの調整は根気強く行います。
ちなみに、写真のV型を水平に変更すると音量が低下しました。