ヘリカルキャビティFMゲルマラジオ
以前、FM放送の受信にチャレンジしたい一心でFMゲルマラジオを試作しましたが、決して性能の良いものとは言えませんでした。この作品を当サイトで公開後、うれしいことに、より高度な視点からFM放送を受信するゲルマラジオを検討されている先輩からメールを戴きました。愛知県在住のH様から、キャビティ(共振器)を用いた受信方法や研究中の設計図などをご教授いただいたのです。
キャビティは分布定数回路であるため、コイルとコンデンサで構成した集中定数回路と勝手が異なりますが、安価な材料で構成したキャビティでも300を越えるQが得られます。理論上、条件が整えば1000以上のQも可能です。LC共振回路で、ここまで高いQは望めません。
素人工作であるため問題点も散見されますが、試作例の1つとして発表したいと思います。改めてH様に深く感謝申し上げます。
ヘリカルキャビティの構造
【図】ヘリカルキャビティFMゲルマラジオの構造
ヘリカルキャビティの構造は、金属で閉ざされた空間(外導体内部)の中心にヘリカルコイルを配置しています。電気的にはλ/4で共振するのですが、共振に必要な長さをコイル化することで、キャビティの物理的な寸法はλ/4より短くなります。外導体でシールドされた空間内には、インダクタンスとしてコイルのインダクタンスと線材自身の分布インダクタンスが、キャパシタンスとしてコイルと外導体における分布容量とヘリカルコイル自身の分布容量が存在します。これらの要素が影響するため、各部の寸法や形状によって特定の周波数で共振し、高いQを得ることが可能です。
掲載の図は、試作した「ヘリカルキャビティFMゲルマラジオ」の構造図です。初めてキャビティに取り組んだこともあり、入手しやすい材料を利用しています。 外導体にはスチール製の缶詰を利用しました。サイズは4号缶です。錆びたり変形したものは性能が発揮できません。
ヘリカルコイルには、直径1.6mmのPEW(ポリエステルエナメル線)を使用します。単一乾電池(UM-1)に密着巻きした後、所定の長さまで引き伸ばします。この際、巻線の間隔が均一になるよう注意します。
僅かな分布容量の違いで共振周波数が変化するので、同調にはM4のボルトを利用します。ナットを外導体にハンダ付けて、ボルトを外導体に挿入します。ちなみに、ナットのハンダ付けには相応の熱量を必要とするので、ハンダごては80〜100Wが好ましいと思います。
受信範囲の事前実験
試作の事前実験として、ヘリカルコイルの巻き数と同調ボルトによる共振周波数の変化について調べました。デジタルディップメーターを用いて計測した結果は表のとおりです。コイルの巻き数を増やしたり、長いボルトを使用すれば、共振周波数が低くなります。試作機も同じですが、この実験ではナットを缶の外側に取り付けているので、缶内部へのボルト挿入量は全長より約3mm短くなります。
共振器の性質として、寸分違わず完全に同じ物を製作すれば、共振周波数の再現性は非常に高いことが知られています。逆にいうと、共振周波数は外導体の寸法、ヘリカルコイルの形状や配置などが僅かでも異なると敏感に変動します。つまり、表の計測結果は、使用した材料と管理人CRLの工作精度に左右されています。表には0.01MHz単位まで記載しましたが、目安程度にご理解下さい。
ゲルマラジオにヘリカルキャビティを使用する
製作中のヘリカルコイルの様子。
振動対策として、竹串をコイルに接着中。
今回は81.5MHz(NHK富山-FM)の受信を想定します。事前実験の結果から、ヘリカルコイルは9.25巻きにしました。ヘリカルコイルは言ってみればバネの状態であるため、外部から振動が加わるとコイルが伸び縮み、内部で位置ズレが生じることで共振周波数が変動します。そこでコイルの振動対策として、エポキシボンドでコイルを竹串に接着しました。さらにこの竹串は、外導体を貫通させてボンドで固定させました。共振周波数を下げるため(同調周波数を変化させるため)、M4×25mmのボルトを使用します。外部アンテナをBNCで接続できるようにし、ヘリカルコイルにタップ入力します。出力はヘアピンコイルから取り出します。今回は製作の容易さや使い勝手を優先し、キャビティ内部に復調回路(スロープ検波)を組みこみ、イヤホンジャックも取り付けました。
デジタルディップメーターと自作のSG化アダプターで確認したところ、受信周波数82.2〜80.6MHz、Q=372(推定)のFMゲルマラジオが完成しました。材質や寸法が最適化されておらず、キャビティ内部にヘリカルコイル以外の部品が存在しますが、300を越えるQになりました。同調ボルトを素手で回しても、ボディエフェクトは僅かで気になりません。ボルトはナットを通過後30回転するので、平均0.053MHz/回転の変化であり、同調は容易と言ってよいでしょう。
ヘリカルキャビティFMゲルマラジオの外観。
FMの復調はスロープ検波。1N60を1本使用