小型バーアンテナ単独の受信性能

同調コイルにバーアンテナを使用すると、原理的には外部アンテナが不要になります。 しかし、増幅回路を持たないゲルマラジオの場合、外部アンテナは欠かせないものです。 そこで、外部アンテナを使わずに、バーアンテナのみで実際に受信できる距離をフィールド調査しました。

国道8号線の高架橋から見た放送塔
国道8号線の高架橋から見た放送塔

測定したゲルマラジオは小型バーアンテナを使用したゲルマラジオです。 実験の趣旨から、アンテナ端子とアース端子には何も接続しません。 また、光起電力効果とボディエフェクトを避けるため、ゲルマラジオを非金属製の箱に入れ、内部で移動しないように両面テープで固定しました。 出力電圧の測定はデジタルマルチメーター「MATEX M-3870D」(入力インピーダンス約10MΩ)を用い、ラジオを入れた箱の上に置きます。

測定の対象とした放送局は、北日本放送(738kHz、5kW)です。 放送塔の近辺には、民家や国道8号線がありますが、北東方向は水田が多く、開けたロケーションであるため(2007年6月現在)、今回の実験には適していると考えました。

受信可能な距離は?

測定結果を表にまとめました。 なお、出力電圧はデジタル表示で変動するため、平均的な値を見積もっています。 また、アンテナ塔までの距離は、Yahoo!地図情報を印刷して測ったおおよその距離であり、送信所の近くは目測の距離です。 送信所の敷地を囲む金属柵に乗せた場合を除き、ゲルマラジオを入れた箱の地上高は1.1メートル前後です。

距離出力電圧周囲の状況備考
25 m1.01 V送信所敷地の境界柵金属柵に乗せて測定
25 m850 mV送信所敷地の境界柵金属柵の上方で測定
45 m443 mV送信所直近の路上、水田
0.2 km80 mV未舗装の農道、水田、住宅λ/2
0.4 km50 mV幹線道路、道路案内柱や水銀灯λ
0.5 km50 mV幹線道路、住宅、交差点に隣接
0.8 km9 mV幹線道路、水田、コンビニ
1.0 km7 mV農道、水田
1.2 km3 mV農道、水田、1.1km付近に高圧線
1.5 km3.6 mV農道、休耕田
1.6 km3.5 mV農道、休耕田
2.0 km1 mV幹線道路、水田、病院

さすがに1mVでは、イヤホンが鳴っている気配が分かる程度の音量で、実用的ではありません。 周囲が静かであれば、イヤホンの性能や個人差は認めますが、3〜4mV程度で放送内容が聞き取れると思います。 したがって、今回の実験「郊外で5kW局をバーアンテナ(PA-63R)のみで聞くことができる距離」は、約1.6kmでした。

送信所敷地前の測定状況
送信所の境界柵に乗せると約1V
0.4km付近の状況
0.4km付近は金属柱が複数隣接する
1kmの状況
水田の向こう1km先に放送塔がある
1.6km付近の状況
放送塔から約1.6kmの状況。このあたりが受信限界。

(反省点) 電圧の測定に使用したマルチメーターはデジタル表示のため、サンプリングごとに値が変化します。 当然、徒歩で移動しながら電圧を測定すると、値は細かく上下に変動し、距離による緩やかな変化を確認できませんでした。 変化の具合を把握するには、アナログ表示の測定器が良いでしょう。 もしくは、出力電圧を平滑するコンデンサーを併用すればよかったかもしれません。 また、0.4km地点と0.5km地点の測定結果が同じであり、1.2km地点で電圧が低下する結果となりました。 これらの結果は、番組内容(音量)の違いで生じたものか、周囲の影響(用水や地下配管、高圧電線や大型の道路案内柱など)で生じたものか、定量的には不明です。 光起電力効果は排除できたと思いますが、箱を手で持った状態で測定しているので、地上高の変動や、若干のボディーエフェクトも影響したかもしれません。 しきい値を求める実験の1例として、とりあえず満足しましたが、理論値を検討するための実験としては厳密性に欠けています。

なお、同じ条件のままで受信距離を伸ばす方法として、小型バーアンテナを使用したゲルマラジオの抵抗器470kΩを取り除き、倍電圧検波を行なう方法が考えられます。