続・ゲルマラジオでFM放送を受信したい

前回の屋外移動実験では、簡易なアンテナ(λ/4)を取り付けたFMゲルマラジオで、出力1kWの放送塔を見通せる2キロメートル離れた場所において、FM放送を受信できました。しかし、同様の条件でも3.5キロメートル離れると受信できませんでした。そこで、利得が高いアンテナを接続すれば、もう少し受信距離を延ばせることが可能ではないかと考えました。

市販品のFM放送受信用アンテナを探してみると、10素子の八木アンテナ(マスプロ電工製FM10)が存在します。 「超高性能遠距離用」とカタログに載っており、8〜10dBの利得があるのは魅力ですが、サイズは4.37×1.92m、重量は約4.8kgあります。 試用してみたいものの、今の私にとって、この大きさのアンテナを移動運用することも、自宅に常設することも困難なため、購入を見送りました。

もっと軽量コンパクトで利得のあるアンテナがないかと探したところ、ヘンテナがありました。 ヘンテナは日本のアマチュア無線家が考案したアンテナで、開発を進めていくと従来の考えと異なる「変な動作をするアンテナ」であることが判明し、「ヘンテナ」と呼ばれるようになったそうです。 ヘンテナの基本構造は、縦がλ/2、横がλ/6の長方形のループ(水平偏波の場合)で、底辺からλ/6に給電点があります。 ヘンテナの利得は、諸説があるようで、3素子程度の八木アンテナに相当するという意見もあるようです。 材料の制限も少なく、寸法どおりに作成すれば、特に難しい調整も必要ないので、自作することにしました。

ヘンテナを自作する

ヘンテナの材料
今回準備したヘンテナの材料。他に結束バンドも使用。

製作には、移動運用しやすいように軽量、コンパクトに持ち運べるように注意し、一時的な実験でもあることから、安価な材料を選びました。 ループは手持ちの電線を利用し、電線を支える木材(91cm、6g弱の桐)を3本、全体を支える支柱には伸縮ポール(いわゆる「つっぱり棒」で190cmまで伸びるもの)、3本の木材を支柱にガイドさせるためのプラスチック製配管バンド、ループの固定には結束バンドを利用しました。電線のほかは全て100円均一ショップで購入しました。ただし、伸縮ポールは200円の商品なため、出費は税込み735円になりました。

受信周波数を81MHz程度として、λ/2=1.85m、λ/6=0.62mにループを組みます。木材に穴を開け、結束バンドを利用して電線と配管バンドを固定します。ループの給電点にあたる箇所の被覆をカッターナイフで丁寧に取り除き、給電線をハンダ付けしました。これで下ごしらえは完成です。

ループが完成した様子
ループが完成した様子
縦はλ/2=1.85m、横はλ/6=0.62m
結束バンドで固定
結束バンドで電線と配管バンドを固定

期待しすぎた・・・?

前回受信できなかった、放送塔から水平距離で約3.5キロメートル離れた神通川緑地公園の堤防で受信にチャレンジします。 ナイロンロープを併用して、ループを支柱に取り付け、支柱を木製のいすに固定しました。 イヤホンを耳に入れ、同調ダイヤルを回すと・・・かすかにイヤホンが鳴っています・・・この局はNHK-FMですね。 入感は間違いないのですが、あまりにも音量が小さく、何か歌っている、何かしゃべっている程度しか聞き取れない状況です。 受信する際は、イヤホンコード長の関係から、体をヘンテナに寄せることになり、自分自身が立つ位置を変えると入感がゼロになってしまいました。

ループを支柱に取り付けた様子
ループを支柱に取り付けた様子
FMゲルマラジオをヘンテナに接続した様子
FMゲルマラジオをヘンテナに接続した様子
受信状況
木製のいすにヘンテナを固定して受信。
ヘンテナの後方3.5kmの山に放送塔があります。

今回はヘンテナを利用することで入感を確認できましたが、放送内容を聞き取るには程遠い結果となりました。 内心、放送塔を見通した位置なので、もう少し受信できるのではないかと、ちょっと期待しすぎました。 これがトランジスターラジオであれば、ヘンテナの効果をもっと実感できたのかもしれません。 FMゲルマラジオで受信距離を延ばすには、さらに利得のあるアンテナが必要なようです。

ダイポールアンテナを自作する

さて、1kW放送塔から2キロメートル離れた場所におけるFMの受信は既に成功していますが、ぎりぎり聞き取れる程度の音量でした。 この時はλ/4アンテナを使用していますが、FMゲルマラジオのアンテナ端子を変更したことから、今回は半波長ダイポールアンテナを準備することにしました。

ダイポールアンテナの材料
ダイポールアンテナの材料。出費は税込み420円

材料として、アルミ丸パイプ(直径約10mm、長さ約91cm)を100円均一ショップで2本購入しました。 購入したパイプを加工せずにλ/4=0.91mとして扱えば、λ=3.64mとなるので82.4MHzが共振周波数になります。 これは、FM放送帯76〜90MHzの中間付近であり、受信には都合が良いと考えられます。 また、アルミ丸パイプを支持するために、金属製(亜鉛ダイカスト)のエンドブラケットと補強ブラケットも100円均一ショップで購入しました。 ブラケットを廃材の板にねじ止めし、パイプをブラケットに挿し込むと完成です。

受信場所は放送塔から水平距離で約2キロメートル離れた井田川の堤防です。 ただし、前回は右岸の細い路上でしたが、今回は適当な広さがある場所を見つけたので左岸に移動しました。 バリコンのダイヤルを回すと、NHK-FMが聞こえます。 λ/4アンテナではぎりぎり聞き取れる程度の音量でしたが、λ/2ダイポールアンテナでは小音量ながらも周囲が静かだとハッキリ放送内容が聞き取れました。

受信実験の資材
受信実験の資材。
クランプは板を三脚に固定するために使用
ダイポールアンテナで受信中
ダイポールアンテナで受信中。
2.0km先の山頂に放送塔があります。
ダイポールアンテナとFMゲルマラジオの接続状況
ダイポールアンテナとFMゲルマラジオの接続状況。
送信用でないため、とてもイージー(笑)
エレメントの支持状況
エレメントはブラケットで支持。これもイージーな扱いですが、
このおかげで、パイプを挿し込むだけのお気軽運用を実現。

ここまでの移動実験で、LC同調とフォスターシーレー復調で構成するFMゲルマラジオは、基本的なアンテナを使用することで1kW局から見通し2km程度の受信性能を有するという印象を受けています。 ただし、選択度が悪いため、放送局の周波数が接近していると電界強度の強い局しか受信できません。 使用している80MHz用の7mm角FCZコイルは、Q=45です。 同調回路のQがコイルのQに支配的だと単純に考えると、−3dB帯域幅は1.8MHz程度になります。 この値は無負荷の場合であり、復調回路やイヤホンの負荷が加わると当然Qは低下するため、感度も選択度も悪化します。 受信距離を延ばすために高利得なアンテナの使用と同時に、FMゲルマラジオはAMゲルマラジオ以上に同調回路のQが重要になると考えられます。
(2007/10/28 本章追記、 2008/04/05 Q値改定(100→45)と帯域幅修正(800kHz→1.8MHz))

ダイポールアンテナの検証

後日、ディップメーターを入手したことから、ダイポールアンテナの共振周波数を確認したところ、約76MHzであることが判明しました。 アルミパイプのエレメント長(λ/4=0.91m)だけで82MHz程度とした考えは誤りでした。 短縮率を適用すること、ブラケットの影響を考慮することが不足していたと、反省しています。

調べてみると、短縮率はエレメントの長さと直径の比、扱う周波数によっても変化するそうです。 そのため文献によって紹介される値が異なるほか、説明を平易にするため短縮率を無視した解説も存在するのが実状です。 また、このダイポールアンテナで使用した4つのブラケットについても、エレメントの延長と考えれば、共振周波数に影響している可能性があります。 パイプカッターでアルミパイプを7cm切り落とし、改めて共振周波数を確認したところ、約84MHzになりました。 ブラケットの影響をどのようにエレメント長へ盛り込むかによって異なりますが、短縮率は概ね0.97前後になるようです。

新作のラジオを完成させて、もう一度、このダイポールアンテナを運用したいと思います。
(2008/04/20 本章追記)

遠距離受信者現れる!

FMゲルマラジオの受信成功者は管理人CRLだけではありません!  それも私より遠距離で受信に成功されています!! FMゲルマラジオを追試していただき、とても嬉しいです。 僭越ながら受信状況を表にしてみました。 くわしくはこちらをご覧ください。

(2008/09/13 本章追記、以後3回追記し、2010/04/29 リンク集に移動)