テレビ音声もゲルマラジオで受信したい

日本の地上アナログテレビ放送は、2011年7月24日までに全て終了する予定です。アナログTVは映像信号と音声信号を隣接する別々の周波数を使用することで、1つのチャンネルを構成しています。音声信号についてはFM放送と同じ周波数変調で送信しているので、ゲルマラジオの作動原理でもテレビ音声は受信できるはずです。しかし、テレビ放送がデジタル化されてしまうと、復調にデジタル処理が必要なため、ゲルマラジオによる音声受信は不可能になります。ここは一つ、過去の良き思い出とするため(!?)、テレビ音声も受信できるゲルマラジオにチャレンジします。

アナログTVの音声周波数

テレビのアナログ表示
デジタルへ移行を促すため、従来のTVには「アナログ」と表示されます。

地上アナログテレビ放送の周波数ですが、1〜12chはVHF帯、13〜62chはUHF帯です。このうち、VHF―LOWチャンネルと呼ばれている1〜3chの周波数は、FM放送(76〜90MHz)に隣接しており、1、2、3チャンネルのテレビ音声はそれぞれ95.75MHz、101.75 MHz、107.75 MHzです。富山県では1チャンネル(北日本放送)と3チャンネル(NHK総合)で地上アナログテレビ放送が行われていることから、この2局を音声受信の対象とします。

「TV音声ゲルマラジオ(仮称)」への道のり

パーツ一式
「TV音声ゲルマラジオ(仮称)」のパーツ一式。
FMゲルマラジオとの違いは、FCZコイルとポリバリコン。

まず、最初に浮かんだ回路が、受信実績のあるFMゲルマラジオをベースに、FCZコイルを80MHz用から144MHz用に、ポリバリコンをAM用からFM用(20pF×2)に変更したものです(可変容量制限の10pFは削除)。この変更で計算上、84〜200MHzをカバーするつもりです。

完成後の受信実験ですが、まずは放送塔の近くで行ないます。当地では、目標とした1chと3chの放送塔は、その敷地が隣同士にあります。電界強度も強い場所ですから、シャレのつもりでアンテナは室内用TVアンテナを使うことにしました。

受信実験の様子
使用したアンテナは室内用TVアンテナ

ところが大誤算です。「ブーーーーン」「ぴゅ〜〜〜ぅ」と入り混じった強いノイズを受信してしまい、まともにTV音声が聞き取れません。ノイズに潰されながらも、なんとか1chの音声が聞こえるのですが、3chが全く聞こえません。分布容量の影響かと思い、ポリバリコンを直列に変更(max10pF相当)すると、今度は3chらしき音声が僅かに聞こえ、1chが全く聞こえません。いずれの場合も雑音まみれの音声で、同調範囲もあやふやであり、受信できたとは言いがたい結果になりました。帰宅の足取りはとても、重かったです・・・。

TV音声ゲルマラジオ(仮称)
ノイズに押し潰されTV音声受信とは言えない結果に・・・

VHF帯は自作の空芯ソレノイドコイル

回路図
ワイズ検波を採用したゲルマラジオの回路図。アースの実態は、
イヤホンジャックをアルミケースに固定したことによるシャーシアースです。

予期せぬ失敗に、次の試作機は、部品と構成を変更して挑みます。前作のようにFCZコイルを使うと、ディップメーターによる共振周波数の測定に手間がかかるので、今度は空芯ソレノイドコイルを自作します。太い線材でコイルを作れば、Qの向上で選択度も改善され、雑音対策にもなるだろうと期待したのです。

自作した同調コイルは、直径1.0mmのスズメッキ線を単四乾電池(UM-4)に密着して5回巻きつけ、長さを約1cmに整えたものです。20pFのミゼットバリコンと組み合わせたところ、65〜150MHzの共振を確認しました。

同調コイルに対する接続ですが、アンテナはタップ入力し、復調はタップが不要なワイズ検波に変更します。抵抗器とコンデンサーの部品定数は計算で導いたものではなく、持ち合わせの部品からイメージで選択したものですが、FMトランスミッターの電波をうまく復調してくれます。

外観
ワイズ検波のゲルマラジオは、アルミケースに入れました。
内部構造
入力から出力まで直線的に配置。ダイオードと抵抗器の並列が特徴的。
内部構造
ワイズ検波のゲルマラジオも内部はシンプル。

「今度は確実に受信できる!」と、意気揚々と受信実験に再チャレンジ。その結果は・・・・・セラミックイヤホンに強いノイズが鳴り響きます(悲)。TV音声はまったく聞き取れません。今回は受信範囲を実測していることから、この強いノイズの正体は、映像信号と考えて間違いないでしょう。

テレビ音声が復調できないのは、残念ながら、テレビ放送の規格に管理人が製作したゲルマラジオの性能が追いついていないことを認識せざるを得ません。地上アナログテレビ放送の映像信号は、音声信号より強く、帯域幅も広いのです(例えば当地1chの場合、映像出力3kW、音声出力0.75kW。NTSC方式の帯域幅は映像4.2MHz、音声200kHz)。選択度の向上が極端に望めないゲルマラジオですから、音声信号が映像信号にマスクされても不思議ではないのでしょう。

再度、フォスターシーレーに

VHFゲルマラジオ
放送塔前で受信実験。音量だけは立派です(悲)

まぁ、受信できない理由は納得できるものの、最初の試作機では、聞くに堪えられないものでしたが、TV音声を僅かに聞き取っています。そこで、アルミケースに入れたゲルマラジオを、最初の回路に近づけたものへ変更してみることに。まだ、未練が残っているようです(照)。

自作のコイルは、FCZコイルのように、アンテナコイルと同調コイルを組み合わせた構成にします。復調回路もワイズ検波からフォスターシーレーに変更します。こうしてVHFゲルマラジオは誕生しました。

そして凝りもせず、三度目の受信実験です(爆)。あわよくば、と思いイヤホンの音に集中すると・・・・・映像信号ノイズ一色でした! うーん、難しい・・・・・。

LC同調の限界領域か

VHFを受信するゲルマラジオ
気が付けば、VHFを受信するLC同調タイプのゲルマラジオも
3台になりました。いずれもFM放送は受信できます。

プロの技術者から見れば、これら一連の行為は馬鹿げていると誰もが判断されるでしょう。でも、地上アナログテレビ放送が完全に終了してしまえば、このような実験自体もできないので、アマチュア精神発揮のお遊びだと、お許し願いたいところです。

本稿執筆時点で、行政上の変更が無い場合、1年7ヶ月後に地上アナログテレビ放送は終了します。もし、ゲルマラジオによるTV音声の受信を目指すなら、管理人がやり残したことを考えると、テレビ音声周波数にピタリと共振したアンテナ、同調回路の改善(Qの高いコイルの製作、選択度の向上)、100MHz帯でも検波特性の良好なダイオードの調達などが必要でしょう。VHF帯ですから、分布共振回路による同調も良いかもしれませんが、このあたりになると、プロの力添えが必要な範疇です。

なお、古いテレビゲーム機やビデオデッキには、1ch又は2chにRF出力する機能を持つ製品もあるので、FMトランスミッターと同じく、予備実験に活用できるかと思います。