FM放送遠距離受信の主要点

ゲルマラジオでFM放送を遠距離受信するための主要な事柄について、列記したいと思います。 影響を受ける要素は多々あり、もちろん、ゲルマラジオ本体の性能も大切ですが、アンテナに関する影響が大きいと管理人は考えています。 だからと言って、あまり神経質にならなくてもよいでしょうが、個々の悪条件が重なると、受信は難しくなると思います。

FM局側のアンテナ

聴取者では変更できない、与えられた条件と言えるものでしょう。主に2つの項目が重要ではないでしょうか。

1 出力(送信電力)

これは当然ですね。出力が強いほど、遠距離受信には有利です。

2 アンテナ高

送信アンテナ高と受信アンテナの垂直指向性
同じ垂直指向性のアンテナを利用する場合、送信アンテナが高い位置にあると、
遠距離受信に有利だと考えられます。

VHF帯のFM放送は電波伝播に直進性があり、サービスエリアを確保するため、見通しのきく山頂などにアンテナ塔が設置されています。 放送アンテナの高さですが、受信アンテナとの見通しの確保や、受信アンテナの垂直指向性を考慮すると、受信地までの高低差は重要な要素だと、管理人は考えています(垂直指向性は後述)。

例えば、富山県のFM局(1kW)は標高約145メートルの城山にアンテナがありますが、新潟県のFM局(1kW)は標高約634メートルの弥彦山にアンテナがあります。 電界強度(放射電界)は距離に反比例して弱まるため、単純に標高の高低比が4倍だから受信距離も4倍に伸びるとは言えませんが、垂直指向性の主ビームの仰角が一定の場合(つまり、同じ受信アンテナを使うならば)、新潟の方が遠距離受信できる可能性があると考えられます。

受信側のアンテナ

聴取者の努力によって、実際に改善できる条件と言えるものでしょう。こちらも詰まる所、2つの項目に要件が整理されると思います。

1 アンテナの種類

アンテナの種類は利得などの電気的特性に直結します。 やはり、利得が高いと受信に有利です。 しかし、利得の高いアンテナは概して大きく、構造も立体的なため、自作や運用が難しくなる傾向にあります。

ゲルマラジオの受信実験では、自作や運用の容易さから、ダイポール系や1λループの運用例が多いようです。 具体的な利得値は、寸法や形状、エレメント導体の太さなどで変化しますが、利得の大小を比較すると、ダイポール<正方形ループ<円形ループとなります。

2 アンテナ高

どこに受信アンテナを設置できるか、これは大切なことです。 電波伝播に障害物が無い状態が理想的ですから、平地より高台、高台より山頂の方が、遠距離受信には有利だと考えられます。 受信場所の標高が高いと、放送塔からの直接波だけでなく、大地からの反射波も伝播しているかもしれません。 強い大地反射波が伝播した場合、受信場所では直接波と大地反射波が干渉しあい、合成された電波の強さは弱くなる場合があります。 受信ポイントを波長以上に、前後左右に移動して確認すれば良いでしょう。

もう1つ、場所自体(地面の標高)ではなく、実は受信アンテナの地上高(地面からの高さ)も重要なのです。 これは地面、地形、建物、構造物など、空間と異なる誘電率、導電率を持つ物体がアンテナに近接することで、アンテナの電気的特性が変化するからです。 利得も若干変化しますが、それより、インピーダンスと垂直指向性の変化が見過ごせないのです。

2-1 インピーダンス

ダイポールアンテナの地上高とインピーダンスの関係
アンテナのインピーダンスは、地上高で変化します。

普通、ダイポールアンテナのインピーダンスは73オームだと教わります。 この値はアンテナの周囲が空間だけで何もない状態(自由空間)での値であり、実際にはアンテナの地上高で変化します。 ゲルマラジオの入力インピーダンスと大きくミスマッチすれば、信号の損失は無視できません。

アンテナ設計ソフト「MMANA」Ver1.77で、ダイポールアンテナ(f=75MHz、λ=4m)をシミュレーションした結果をグラフにしてみました。 特にアンテナ地上高が低いと、インピーダンスは大きく変化しています。 エレメントの寸法(共振周波数)や導体の太さ、地質(誘電率、導電率)で具体的な値は違ってきますが、アンテナ地上高でインピーダンスが波打つように変化する状況は同じです。 だいたい1λ以上になると、インピーダンスもある程度は安定してくるのですが、90MHzでも1λ=3.33mあるので、アンテナには支柱が必要です。 アンテナを手持ちした場合の地上高は、0.5λ以下になる場合が多いでしょう。 アンテナは向きだけでなく、高さも調節してみることをお勧めします。

ちなみに、インピーダンスの変化をゲルマラジオ側で対応する例として、アンテナカップラーを用いる方法(FMゲルマラジオ・モデル2)があります。

2-2 垂直指向性

水平ダイポールアンテナの指向性は、水平には8の字、垂直には無指向性だと教わります。 この指向性パターンもアンテナの周囲が空間だけでに何もない状態(自由空間)でのパターンであり、アンテナの地上高で垂直指向性に強弱の変化が現れます。 構造が単純なダイポールや1λループは影響を受けやすいようです。 強いパターン(主ビーム)が丁度、放送アンテナに向いていることが好ましいと考えられます。

地上高 垂直指向性 指向性(3D表現)
自由空間 自由空間におけるダイポールアンテナの垂直指向性

(無指向性)

自由空間におけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
1/4 λ 地上高0.25λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高0.25λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
1/2 λ 地上高0.5λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高0.5λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
3/4 λ 地上高0.75λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高0.75λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
1λ 地上高1λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高1λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
5/4 λ 地上高1.25λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高1.25λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)
3/2 λ 地上高1.5λにおけるダイポールアンテナの垂直指向性 地上高1.5λにおけるダイポールアンテナの指向性(3D表示)

上記のパターンは、アンテナ設計ソフト「MMANA-GAL」v1.2.0.20でダイポールアンテナ(f=75MHz、λ=4m)をシミュレーションした結果の一例です。 高さによるパターンの変化は地質(誘電率、導電率)でも違ってきますので、「この地上高は必ずこのパターンになる」ということではなく、ここでは高さが違うとパターンが変化することをご理解ください。 アンテナの種類が異なれば、パターンの形状や地上高による変化の具合も異なってきます。

受信実験について

以上のことを勘案すれば、できるだけ条件の良い受信場所の選択(放送塔を見通せる高い場所)や、その場所に合わせてアンテナを調整(上下・前後・左右の移動)することが大切だと、ご理解いただけたかと思います。放送塔の近くならば気にすることもないでしょうが、遠距離受信を目指すならば、これらの知識は知っていて損はないと思います。

例えば管理人の場合、1kW局から3.4km離れた場所で、地上高の低いヘンテナと地上高の高いダイポールでの受信実験の経験があります。 ダイポールより利得の高いヘンテナ(1λループに相当)で受信に失敗していますが、これはインピーダンスのミスマッチと垂直指向性の乱れが複合した結果だと思われます。

ヘンテナの受信状況
ヘンテナの地上高が低く、受信に失敗。
続・ゲルマラジオでFM放送を受信したい
ダイポールアンテナの受信状況
ダイポールアンテナでも地上高を稼ぐことで、受信に成功。
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