クリスタルスピーカーの特性
クリスタルスピーカーの市販が始まった頃の広告(昭和24年)
わずかな電気信号で音を得られることから、昭和の中ごろ、ロッシェル塩を発音体に利用したイヤホンやスピーカーが製造、販売されていました。しかし、ロッシェル塩の結晶は湿気で壊れてしまうことから、今日では可動するクリスタルイヤホンは数少なく、クリスタルスピーカーに至っては皆無と言われる状況であり、一部のマニアにとっては垂涎の品と化しています。管理人CRLも「クリスタルスピーカーであればゲルマラジオもスピーカーで聞けるもの」だろうと憧れ続けていました。
そんな激レアなクリスタルスピーカーですが、ネットオークションに出品された可動品を運よく落札することができました! いやぁ、ある所にはあるものですね。初めて秋葉原に行ったとき「クリスタルスピーカーなんて今時ないよ」と、お店の人に諭されて歯がゆい経験をしたものですが、今となっては懐かしい思い出となりました。
クリスタルスピーカーの外観
入手できたクリスタルスピーカーには「RION」などの表示があることから、現在のリオン株式会社の前身である小林理研製作所の製品だと判断できます。小林理研製作所がクリスタルスピーカーを販売していた初期の広告を見ると、フレームは全体的に四角い形状です。ですが、本品のフレームは全体的に丸い形状であることから、後期の製品であることが窺われます。大きさですが、グリルの直径部分はほぼ3インチ(7.62センチメートル)、フレームの直径は8.0センチメートル、厚さは2.1センチメートルです。なお、グリルは修繕されており、オリジナルとは異なっています。重量は約55グラムでした。
グリルは修繕されています。コーン紙の前にある十字型のフレームが特徴的。
フレームに表示された「RION」の文字の裏側に発音体が存在します。
画面下側にあるスピーカー端子は、銅製のようです。
はんだ付けしてあった形跡があります。
スピーカーの背面には「RION CRYSTAL SPEAKER」
「KOBAYASHI・RIKEN」と表示されています。
「RION」の裏側に配置されたロッシェル塩の振動は、竿でコーン紙に伝えています。
変に曲がって見えている部品が竿(レバー)ですが、全体的にはYの字状です。
つまり、2点で発音体のロッシェル塩と、1点でコーン紙の中央と接続しています。
クリスタルスピーカーの周波数特性
クリスタルスピーカーの複素インピーダンスを測定しました。ただし、スピーカーユニットは机の上に仰向けに置いた状態であるほかは、セラミックイヤホンの特性と同じ測定要領で、自作のLC測定用ブリッジを使用しました。この結果をグラフにします。
今回も直列容量ブリッジの状態で測定しており、グラフに表示した値は、直列の2素子に相当する値です。ある程度、滑らかな曲線になることを期待していましたが、細かな変動が多いです。特性を比較するならスピーカーどうし、つまり、現在市販中のダイナミックスピーカーが良いのでしょうが、大きく異なることは明らかです。ここは珍しい物どうし、あえてクリスタルイヤホンの特性と比較してみます。
スピーカーの静電容量が大きいのは、イヤホンより素子が大きいことが原因なのか、スピーカーユニットの構造による機械的な影響によるものなのでしょうか。音響素子が同じロッシェル塩であるためか、全般的にはイヤホンと似た傾向があるようです。それでも、800Hz辺りに極大値、900Hz辺りに極小値が大きく現れるなど、異なる特徴が認められます。
イヤホンの場合と異なり、860Hzと2600Hzの辺りにピークが現れています。860Hz前後を基本波と考えると、2600Hz辺りは第3高調波に相当します。また、1900Hzと3580Hz辺りにあるピークは、それぞれ第2高調波、第4高調波に相当します。4300〜4500Hzで僅かに現れる値の変動は、第5次高調波に相当するかもしれません。
逆にイヤホンの場合は、1900Hzと3750Hz辺りのピークがそれぞれ、基本波と第2高調波に相当するようですが、よく見ると、イヤホンでも900Hzあたりで僅かな値の上昇があります。イヤホンを測定した当初は、測定誤差によるものかと考えていましたが、意外とこちらが基本波であり、イヤホンの構造による影響で抑圧されていたのかも?と考えてみたりするのですが、よく解りません。
クリスタルスピーカーのインピーダンス
以上の測定結果から、クリスタルスピーカーのインピーダンスを算出しました。ここでも、クリスタルイヤホンと比較してみます。
イヤホンよりインピーダンスが低い結果になりました。全体的には容量性で似た傾向の特性ですが、900Hz辺りで極大値と極小値が明確に現れる違いもあります。
クリスタルイヤホン、クリスタルスピーカーの定格インピーダンスですが、実験の範囲内では、大雑把に20kΩと見なせます。
クリスタルスピーカーの音響特性
さて、このクリスタルスピーカーですが、ゲルマラジオで使うイヤホンとそのまま交換するだけで鳴らすことができます。壁ループ・ゲルマラジオに接続したところ、さすがに大音量とはいきませんが、インピーダンス変換した同じサイズの安物ダイナミックスピーカーより、良く鳴ってくれます。スピーカーユニット単体の音質は「中低音もちょっと出ているセラミックイヤホン」と例えたら、分かってもらえるでしょうか。実際に出力される音響特性(音圧の周波数特性)について、簡易ですが測定してみました。
抵抗特性と相関性があるグラフになっており、0.9kHzのほか、1.9kHz、2.6kHz、3.6kHz周辺にピークが現れています。測定はスピーカーユニット単体によるものであり、エンクロージャーに取り付ければ、また少し違った特性を示すことでしょう。なお、600Hz以下は細かく変化していますが、これらはノイズであり、まともにスピーカーから音が出ていない状態です。
測定環境をフラットな特性に整えず簡易に測定したのは残念ですが、測定結果とLoopテストのピーク周波数は異なることから、測定結果は定量的には不十分ですが、定性的にはクリスタルスピーカーの特徴が現れていると考えています。
クリスタルスピーカーは、そのユニットの大きさの割には小信号でも音が大きく、インピーダンス変換不要でゲルマラジオに使える手軽さは長所ですが、入手困難性が短所です。また、入手しても常に湿気対策に気を使うことになります。クリスタルスピーカーよりユニットのサイズが大きくても良ければ、ダイナミックスピーカーの中から、効率が高くて性能のよいものを選び、インピーダンス変換して利用すれば、クリスタルスピーカーに勝るとも劣らない音量、音質が得られるでしょう。特に微小な信号でも何とか音を出したいのであればトランペットスピーカーを、音質を軽視したくなければオーディオ用フルレンジスピーカーをお勧めします。音量重視でエンクロージャーを自作するのも面白いかもしれませんね。
参考資料
周期スイープを用いた周波数特性の測定について (efu 様)