セラミックイヤホンの特性
セラミックイヤホンは、微弱な電気信号を音に変換するゲルマラジオに欠かせないパーツです。ゲルマラジオを趣味にしていると、複数のイヤホンを使う経験に至りますが、同じゲルマラジオでもセラミックイヤホンを交換すると微妙に、場合によっては明らかに音色や音量が異なることがあります。案外、特性の個体差(ばらつき、製造誤差)が多いのかもしれません。そこで、秋葉原の14店から購入したセラミックイヤホン20個の特性を実際に測定しました。
用意したセラミックイヤホンは、「JAPAN」と表示されており、1mコードでプラグ付きの商品
(1つだけ、みの虫クリップ付き)です。
セラミックイヤホンのインピーダンス
まずは低周波信号発生器と抵抗器一本で、セラミックイヤホンのインピーダンスを簡易的に測定します。
測定に必要な低周波信号発生器はパソコンの音源で代用し、テスト信号発生ソフトWaveGeneで周波数と出力電圧を制御します。パソコンからの接続には、「ゲルマラジオでヘッドホン、スピーカーを鳴らす」で製作したトランス構成のアダプターを流用します。パソコンのヘッドホン出力をアダプターのヘッドホン端子(8オーム側)と接続し、アダプターのゲルマラジオ接続側(5キロオーム側)には、抵抗器(10キロオーム)とイヤホンを直列に接続します。測定時の室温は19〜21度、湿度は約48〜51%で、イヤホンのコードは直線状に伸ばし、耳栓の透明プラスチック部分は開放状態とします。
測定の手順ですが、まずWaveGeneで出力を制御し、イヤホンの両端電圧を100mV前後にします。抵抗器の両端電圧を測定することで電流を求め、この電流とイヤホンの両端電圧からイヤホンのインピーダンスを計算します。
インピーダンス測定の様子。抵抗器とイヤホンの両端電圧は、10:1プローブで
接続した岩通DS-8822で測定(アダプターには絶縁トランスの作用もあります)
測定結果をグラフにします。20本もグラフに表示させると、製品としての全体的な傾向が見えてきます。やはり、ばらつきがあるようです。
特性の傾向は、つぎのとおりです。
- 3〜4kHzでインピーダンスに大きな変化が1回あり、極小値と極大値が存在する。
- 1.8〜1.9kHzでインピーダンスに小さな変化が1回あり、極小値と極大値が存在する。
- 全般的にはコンデンサーと同様な特性で、周波数が低いほどインピーダンスが高くなる。
中波放送の帯域幅を考えると、4.5kHzまでの測定データーがあれば十分でしょう。ちなみに、5kHzから10kHzまでのインピーダンスは徐々に低下し、いずれのイヤホンも10kHzでは1キロオーム前後になります。また、100Hzでは、80〜90キロオーム程度になります。2箇所あるインピーダンス極大値周波数の付近では、イヤホンの音量がとても大きく、逆に、2箇所あるインピーダンス極小値周波数の付近では、イヤホンの音量が小さくなります。
素人考えですが、正確で均質な計測には、短時間で測定を終えることが大切かもしれません。極値近辺を確認するため再計測すると、インピーダンスが微妙に変化することを経験しました。良く分かりませんが、単一の周波数で100mVも加えると、僅かにヒステリシスが発生しているのではないかと推理します。さらに、日を改めて測定すると、極値の周波数が10〜30Hz程度変動している場合も経験しました。こちらも良く分かりませんが、冬季の計測で夜間は暖房を消していたため、温度変化による影響があったのかもしれません。
周波数特性の違いによる音の違い
インピーダンス極大値周波数の高低に着目し、20本のセラミックイヤホンの中から代表的な3本(No.1、No.17、No.20)を選び、ループアンテナ(63cm角、ガラ巻き)を使用したゲルマラジオで聞き比べました。
管理人の聴覚に頼るため、主観的な感想ですが、それぞれ比較しあうと、次の結果になりました。
- No.1の音は、こもった感じで高音が少なく、音量もやや小さい
- No.17は音量が一番大きく感じられ、結果として聴きやすい
- No.20の音は、かさついた感じで低音が少なく、音量もやや小さい
最もインピーダンスの極値が大きいNo.20が音量も大きいと思いましたが、違いました。No.20の音量が少ない理由について、個人的な推測で裏付けが足りませんが、次の可能性を考えています。
- 中波放送の帯域幅に関する特性のため、4kHzより3.5kHzの音声スペクトルが強い
- 聴覚感度特性(等ラウドネスレベル曲線)の関係で、小さく聞こえてしまった
- イヤホンケースの共鳴周波数とミスマッチ等による損失
いずれにせよ、特性に個体差があることで、音色や音量が違うことに納得した次第です。念のため、インピーダンス極大値周波数がほぼ同じで、インピーダンスが異なるイヤホンも聞き比べてみました。僅かにNo.19が大きく聞こえますが、No.2の音量差は気にするほどありません。極大値の周波数がこのあたりだと、聞き取りやすい印象を受けます。セラミックイヤホンをゲルマラジオに使用する場合、インピーダンスが極端に低くなければ、聴覚的には極大値の周波数が重要な要素だと思います。
複素インピーダンスの測定
前項ではインピーダンスの絶対値を測定しましたが、今度はレジスタンスとリアクタンスに分けてインピーダンスを測定します。この測定には交流ブリッジを利用します。ブリッジが平衡になれば、イヤホンはRとC、RとLの2素子と等価だと見なせます。絶対値の測定に利用した抵抗器を、自作したLC測定用ブリッジに置き換え、平衡検出のイヤホンを接続します。20本のイヤホンから代表としてNo.17を選んで測定し、得られた結果をグラフにしました。
LC測定用ブリッジによる複素インピーダンス測定の様子。平衡の検出はセラミックイヤホンを利用。
写真は平衡時の抵抗値VR2をデジタルマルチメーターで確認中の結線です。
容量は直列容量ブリッジ、インダクタンスはマクスウェルブリッジで測定しており、グラフに表示した値は、直列の2素子に相当する値です。 このグラフの中で、極値が存在する2箇所を拡大したグラフは次のとおりです。
3.1〜3.5kHzでは値に急激な変化を見せます。全般的にはセラミックイヤホンは容量性ですが、インピーダンスの極小値付近から極大値付近までは、誘導性であることが確認できました。
インダクタンスのグラフが少々角ばっています。本来はもう少し滑らかになるはずです。ブリッジに微動操作用の可変抵抗器があれば、もう少し丁寧に平衡点が検出できたかと思いました。
資料によると、位相が0になる低い周波数が反共振周波数、高い周波数が共振周波数とされており、今回の測定でも、そのような周波数が存在するものと推認されます。また、インピーダンス極大値周波数と共振周波数は、近接していますが厳密には異なる周波数とされています。同様に、インピーダンス極小値周波数と反共振周波数も、近接していますが厳密には異なる周波数とされています。今回の測定でも、これらの周波数の違いがグラフに現れていると思います。
共振点付近におけるセラミックイヤホンの等価回路
ちなみにセラミックイヤホンの等価回路ですが、個々の周波数に対しては2素子と見なせますが、共振周波数から反共振周波数までの前後を含めて考えると4素子の等価回路になるそうです。
セラミックイヤホンの音量を最大限に引き出すには、インピーダンスマッチの考えが必要でしょう。ゲルマラジオの検波回路などの兼ね合いもありますし、聴覚上の効果は認められるほどあるのかと、色々と考え出すと管理人には難しいことばかりです。
備考
セラミックイヤホンの購入先
他店でも販売していると思いますが、短時間で急ぎ買い歩きしており、14店からの購入となりました。
所在 | 店名 |
---|---|
東京ラジオデパート | 桜屋電気店、 シオヤ無線電機商会、 瀬田無線2F店 |
秋葉原ラジオセンター | 内田ラジオ、 三栄電波、 山一電気1号店、 山長通商、 三善無線 |
秋葉原ラジオ会館 | 若松通商 駅前店 |
ニュー秋葉原センター | 国際ラジオ |
(戸別店舗) | 鈴商、 千石電商1号店、 ヒロセテクニカル、 マルツパーツ館秋葉原2号店 |
(店名は五十音順。購入時期は平成19年12月、20年3月、20年11月。店名と試料Noの関係は非公開。)
ご注意
本ページで扱っている「セラミックイヤホン」は、チタン酸バリウムなどの圧電セラミックを利用した音響部品で、一般に「クリスタルイヤホン」と呼ばれて流通している商品です。本ページでは材質の違いを明確にするため、セラミックイヤホンと表記しました。圧電素子にロッシェル塩を利用した本来の「クリスタルイヤホン」の性能については、クリスタルイヤホンの特性をご覧下さい。
参考資料
クリスタルイヤホンを測定したい!(浅瀬野 様)
PDF:技術資料 圧電セラミックス(FDK株式会社)
PDF:圧電セラミック テクニカル・ハンドブック(株式会社富士セラミックス)
PDF:圧電セラミックス(ピエゾタイト)応用センサ(株式会社村田製作所)
(著者名は五十音順)