「見えない回路」で作動するゲルマラジオ

ゲルマラジオは回路構成が簡単であり、部品の電気的な特性を勉強すると、深い理解が得られます。 しかし、単純なゲルマラジオと言えども、回路図だけでは理解に苦しむ場面があります。 そんな問題に直面する、究極的にシンプルなゲルマラジオについて、考えたメモを残しておきます。

アンテナとアースを使う、最も簡単なゲルマラジオ

最も簡単なゲルマラジオの回路図

原始的なラジオであるゲルマラジオは、アンテナ回路、同調回路、検波回路、出力回路の4つを組み合わせる構成が、通常です。 更に「最も簡単なゲルマラジオ」という究極を極めると、同調回路を抜いたゲルマラジオにたどり着きます。 電子部品としては、ダイオード1本とイヤホン1個と極めてシンプルです(図1)。 どの放送局が聞こえるのか、電波の強さ(電界強度)とアンテナの電気的特性(共振周波数)で左右されることになります。 複数の局が同時に聞こえるか、1局だけ聞こえるか、まったく聞こえないかは、試してみないと分かりません。


図1のゲルマラジオの受信原理ですが、アンテナ側がプラスの時、高周波電流はダイオードを通過できずに、イヤホンを経由してアースに流れます。 逆に、アース側がプラスの時、高周波電流はダイオードを通過するため、イヤホンには流れません。 したがって、イヤホンに流れる電流は検波された状態と同じなため、音が鳴ります。

アースを使わない、最も簡単なゲルマラジオ

アースを使わない最も簡単なゲルマラジオの回路図

次に、アースを使わない場合における、最も簡単なゲルマラジオとして、図2の回路が知られています。 ダイオードを逆向きに並べ、一端はアノードとカソードを接続し、反対側はそれぞれの端をイヤホンと接続しています。 大型の金属物体(カーテンレール、アルミサッシ、ベランダの手すり、など)に接触させることで、ラジオが鳴る公算です。

RFプローブ(高周波プローブ)の回路図

そして、図2と同様な回路構成を持つ物として、RFプローブ(高周波プローブ、RFチェッカー)があります(図3)。 こちらはイヤホンの代わりに、直流電圧計やテスターを接続し、高周波の検知や信号強度の比較などに用いるものです。 より適切に測定するため、C1(結合度)とC2(平滑化)のコンデンサーを追加し、その値は測定周波数や電圧計の性能に応じて決定します。

さて、図3もそうですが、図2の回路って、納得できますか?  アンテナから流れてきた高周波電流は、ダイオードD1、イヤホンへ流れます。 すると次は、ダイオードD2を通過してアンテナに戻ることになります。 電流は電位差があるから流れることを知っていれば、これは明らかにおかしな現象です。

「見えない回路」でRFプローブとゲルマラジオは作動する

実は図2、図3には、回路図には書かれていない「見えない回路」が存在すると考えられます。 その名は「浮遊容量」です。 つまり、回路外の空間に、ごく微量ですが、コンデンサーと同じ電気特性が存在するのです。 特に図2では、ゲルマラジオと大地の間で容量が存在すると考えらえれます。

RFプローブ型ゲルマラジオの理論回路図

図4の回路図は、見えない回路を追加した等価回路であり、ゲルマラジオの動作原理を示します。 Cf1、Cf2が浮遊容量であり、ダイオードからイヤホンまでの電線と大地の間に存在します。 最初、Cf1、Cf2は空っぽで、電気は溜まっていません。 そして、アンテナに見立てた金属に触れた時、アンテナがプラスだったと仮定します。 すると、高周波電流はD1を通過後、Cf1を経由して大地へ向かう流れと、イヤホンとCf2を経由して大地へ向かう流れが生じます。 この時、Cf2はイヤホンと分圧するため、Cf2よりCf1の充電電圧が高くなります。

次にアース側がプラスに転じると、高周波電流はCf1とCf2のそれぞれを通過しようとするため、倍電圧検波回路と同様な状態になります。 Cf2を通過した電流はそのままD2を通過し、アンテナへ向かいます。 そして、Cf2より充電電圧が高い状態のCf1を通過する電流は、イヤホンのA側、B側を流れ、D2を通過しアンテナへ向かうことが可能です。 したがって、アンテナとアースのどちらがプラス側になっても、イヤホンを通過する電流はA側からB側への流れであり、検波された電流と同じだと言えます。

ラジオの受信は、電界強度と接触させた金属のアンテナ特性のほか、浮遊容量の大きさでも左右されます。 電子回路にとって、人体は容量や抵抗値を有する対象物に該当するため、浮遊容量を構成する要因の1つと言えるでしょう。


以上、アースを使わない最も簡単なゲルマラジオについて、RFプローブにも関連する作動原理を考えてみました。拙い説明のメモ書き、失礼しました。

プロの回路技術者は、このような浮遊容量のほか、部品同士の誘導結合や静電結合、発熱や受熱による特性変化、内部や外部のノイズ対策など、回路図には現れない要素も総合して設計していると、聞き及んでおります。