AMゲルマラジオの受信距離
ゲルマラジオは増幅回路を持たないため、受信場所において十分な電界強度(電波の強さ)を必要とすることから、受信可能な距離は限られています。ゲルマラジオの聴取範囲に関連する資料を整理し、受信可能な距離について少し検討しましょう。
受信環境としての中波放送の電界強度
ゲルマラジオの前に、まずは電源を利用する一般的なラジオで受信する場合、どれくらいの電界強度を必要とするのでしょうか。通常、中波ラジオは外部アンテナを接続せずに聴取する使われ方が多いでしょうから、一般人の目線で見れば、ラジオ本体の性能(感度)が受信の可否を分ける、と受けとらえる人も多いでしょう。
1 法律が定める放送区域の電界強度
中波放送を行う基幹放送局における放送区域の電界強度は、総務省令の「基幹放送局の開設の根本的基準」で定められており、0.25mV/m以上の電界強度である場所が放送対象となる区域(サービスエリア)とされています。
区域 | 電界強度の範囲(mV/m) |
---|---|
高雑音区域 | 10以上50以下 |
中雑音区域 | 2以上10未満 |
低雑音区域 | 0.25以上2未満 |
区域ですが、高雑音区域は大都市や工業地帯、中雑音区域は都市の住宅地帯、低雑音区域は郊外が想定されるでしょう。ここでの電界強度は、区域内での雑音レベルに打ち勝つために必要な電界強度です。この省令の始まりは、郵政省令として昭和25年12月5日から施行されています。
2 中波ラジオ局による説明
電界強度別の受信状況について、TBSラジオでは 2mV/mを「ごく良好に聴取できる」、0.5〜2mV/mを「一般に良好に聴取できる」、0.25〜0.5mV/mを「実用上聴取できる」と表現しています。ニッポン放送では 2mV/mを「非常に良好に聴取可能」、0.5〜2mV/mを「良好に聴取可能」、0.25〜0.5mV/mを「聴取可能」と表現しています。
また、下記の電界強度マップを見ると、電界強度は送信アンテナを中心とした綺麗な円ではありません。送信アンテナから同じ距離だけ離れていても、同じ電界強度にならず、電波が到達しにくい地域が存在します。
電界強度マップを公表している放送局
- TBSラジオのカバレッジエリア http://www.tbs.co.jp/radio/sales/cm/area.pdf
(TBSラジオの送信所 : 埼玉県戸田市氷川町3丁目3番51号) - ニッポン放送のカバレッジエリア http://www.jolf.co.jp/eigyou/data/medi/2008MGp9.pdf
(ニッポン放送の送信所 : 千葉県木更津市椿318)
[参考] 地球上の2地点間の距離を求めるサイト http://keisan.casio.jp/has10/SpecExec.cgi?id=system/2006/1257670779
3 電界強度別による受信可能なラジオの分類
「トランジスタラジオの作り方」(松尾誠 著、金園社、S38初版 S42第6版)では、次の表のように紹介しています。
電界強度 | 受信可能なラジオ | |
---|---|---|
強電界 | 10mV/m以上 | 鉱石ラジオ、並三などでも十分聞こえる。 |
中電界 | 2mV/m以上 | 鉱石ラジオではかろうじて、並四、高一などが良い。 |
弱電界 | 0.5mV/m以上 | 高一か四球スーパーで聞こえる。 |
微電界 | 0.1mV/m以上 | 五球スーパーが適当。 |
極微電界 | 0.02mV/m以上 | 六球スーパーでないと無理。 |
本の題名とは裏腹に、ラジオの種類は並三(なみさん)、並四(なみよん)、高一(こういち)と、真空管ラジオの回路構成で説明しています。ちょうど、真空管ラジオからトランジスタラジオに切り替わっていく時代の書籍であり、評価が豊富にある真空管ラジオだけを掲載したのでしょう。それと、真空管ラジオは外部アンテナとアースを使用することが普通なのですが、肝心のアンテナの説明が上記の表に添えられていません。逆に説明がないことから、真空管ラジオが使われていた時代のデフォルトであった「標準アンテナ」(高さ8m、水平部12mの逆L型アンテナ)であろうと推定されます。
ゲルマラジオの受信要件
部品性能や回路構成にも左右されますが、ゲルマラジオは増幅回路を持たないのですから、「アンテナ回路でにおいて一定以上の強い信号を扱うことができれば受信が可能になる」と考えられます。
上記の受信条件は、電界強度とアンテナの性能によって決まります。つまり、
(電界強度)×(アンテナの実効長(実効高)) ≧ (必要な電圧)
を満たせば良いのです。
1 電界強度の推定
電界強度は各種条件の影響を受けます。放射電界は距離に反比例するという特性は有名ですし、大地の状態(平野、丘陵、山岳、海上の別)でも異なってきます。同じ電界強度となる送信出力と受信距離の関係について、管理人CRLが推定した結果をグラフに示します。
推定には、GRDS(フリーソフトウェア)を使用しました。推定の条件は色々と意見はありましょうが、一般的なものと期待される値を選びました。出力や距離が同じでも、周波数が違うと電界強度が変化することが分かります。
- 送信アンテナ : 0.25波長(λ/4)垂直接地アンテナ
- 比誘電率 : 15(平野)
- 導電率 : 0.005S/m(平野)
- 減衰係数 : Nortonの近似式を利用
先の計算条件は、放送局から受信地までの伝播路が一様な場合に相当しますが、現実の大地は一様ではありませんし、それぞれの平野で電気的特性が異なることがあります。都市部と郊外では、建築物や構造物の分布も違うでしょう。したがって、これらの見積もりは、代表的な一例程度に見なしていただきたいと思います。
このグラフには、推奨する受信距離の適用最大値が存在します。実際の大地は球面ですが、近似式は大地を平面としているため、距離が長いと誤差が大きくなります。600kHzで95km、900kHzで83km、1200kHzで75km、1600kHzで68kmが目安です。グラフでは推奨値にかかわらず計算値を表示していますが、推奨値以上は受信距離を短く見積もるべきです。
ところで、他のゲルマラジオ愛好家と受信状況を話し合う時、両者の受信条件は異なるのが常なので、自己の受信環境に置き換えて考えることは困難です。そんなとき、相手と自分の電界強度の状況が推測できれば、検討に役立つのではないでしょうか。電界強度は実測できれば1番良いのですが、実測できないのであれば、GRDSの計算結果は代替案の1つになるでしょう。
2 アンテナの実効長(実効高)
アンテナが電波をキャッチして共振した場合、半波長ダイポールアンテナを例にすると、電流は両端が0で中央が最大、逆に電圧は両端が最大で中央が0と、誘起された電流(電圧)の分布は一様ではありません。もし、誘起された電流や電圧の分布が一定ならば、アンテナの状況がより簡単に把握できて便利です。そこで、電流分布の最大値(半波長ダイポールでは中央の給電点)を大きさの基準として、同じ電力を扱うのに相当する長さを定義します。非接地型のアンテナでは、この長さを「実効長」と言います。接地型のアンテナでは「実効高」と呼びます。
実効長・実効高は、これと電界強度を乗算すると誘起される電圧が求められるメリットがあり、アンテナの性能を示す指標の1つと言えます。実効長・実効高を求める計算式は、アンテナ別に知られております。 (λ:波長[m]、A:ループの断面積[m2]、N:ループの巻数)
- 半波長ダイポールアンテナ λ/π [m]
- λ/4接地アンテナ λ/(2π) [m]
- ループアンテナ 2πAN/λ [m]
ただし、これらの実効長・実効高は、いずれも共振時を想定したものです。ゲルマラジオでもループアンテナについては、前記の式で求めて大丈夫ですが、ワイヤーアンテナはそうはいきません。ほとんどの場合、アンテナ長はλ/4より短いため共振しておらず、さらに垂直ではなく一部を水平に設置した逆L型のように形態も様々であり、上記の計算式は適用できません。
3 必要な電圧
ダイオードを通過し、イヤホンを鳴動させるだけの電圧があれば良いのだろう、と思うものの、この数値が判然としません。低感度のゲルマラジオは高い電圧が必要で、高感度のゲルマラジオは低い電圧になるのでしょう。回路構成によって異なるだろうし、使用するダイオードやイヤホンの電気的性能にも左右され、最後は人の聴覚に頼るため個人差も入り込みます。
次章では、目安となる電圧を資料から探ってみることにします。
ゲルマラジオの受信距離を示した資料
ここからはゲルマラジオに的を絞り、入手又は確認できた文献等を、時代別に整理、検討します。
1 大正時代の資料
まず、古い書籍ではどのように説明していたのでしょうか。
ラジオ放送が始まった頃の書物に「無線受信器の作り方(鑛石検波器の巻)」(伊藤賢治 著、大正13年1月初版、大正14年9月二十版)があります。鉱石ラジオの製作例が1つ掲載されており「本装置を以って無線電話なれば二十五哩迄、無線電信なれば五六十哩迄聴く事が出来る」とあります。つまり、ラジオ放送は約40km、モールス信号は80〜96kmまで受信可能となります。大正14年に東京で発行、発売された書籍であることから、ラジオ局は東京放送局(NHKラジオ第一の前身、JOAK)の出力1kWを想定した受信距離だろうと推測されます。
無線受信器の作り方(鑛石検波器の巻)
掲載の鉱石ラジオはいわゆる「塹壕ラジオ」
なお、アンテナ線の全長は75尺以上100尺位(23m以上30m位)、高さは30尺(約9m)以上が必要で、「アースの良否はすこぶる大切」と書かれています。掲載の鉱石ラジオは、いわゆる塹壕ラジオと同じ原理のものです。鉱石は方鉛鉱の探り検波器、コイルは直径4寸(約12cm)で「24番の二重絹巻銅線」を80回巻いて、パラフィンで防湿加工しています。受話器(当時は高インピーダンスのヘッドホン)は頭部固定バンドが付いた両耳用が良好で「これだけは思い切って上等なものを買い求めておきたい」とあります。
「素人に作れる無線電話の実験」(今井紀 著、大正15年2月初版、大正15年6月五版)もラジオ放送が始まった頃の書物です。こちらは放送局が出力1kWだと記載されており「三哩くらいまでは低声に拡声器鳴る。五〇哩くらいまでは、受話器で相当によく聴える。最大レコードは約五〇〇哩」とあります。つまり、約4.8kmまでは(ラッパ型の)スピーカーが声をひそめたように鳴る、約80kmまでは受話器で聴こえる、これまでの記録で受信できた最大距離は約800kmとなります。
素人に作れる無線電話の実験
最大レコードは約五〇〇哩
この説明におけるアンテナは単線逆L型であり、アンテナ線の全長は50尺以上100尺(15m以上30m)、高さが30尺以上45尺(9m以上13.6m)位としています。鉱石ラジオの形態は併記されていませんが、ゲルマニウムダイオードは開発されていない時代であり、鉱石検波器を使用していることは確実です。
いずれの文献も、単位に哩(マイル)を使っていることから、海外の文献を引用している可能性が指摘されます。また、アンテナの全長は、標準アンテナより長いものを含めて提示されています。
2 昭和時代の資料
次の表は、確認できた昭和時代の資料を整理したものです。昭和になると、増力した放送局も多くあり、出力別に説明する特徴があります。
受信条件 | 500W局 | 1kW局 | 10kW局 | 50kW局 | 100kW局 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|---|
電灯線アンテナ 電話線アンテナ | 5km | 10km | 30km | 東電気株式会社 ゲルマニウムラジオG-1型 Catalog No.211 | ||
標準アンテナ | 10km | 15〜20km | 30〜40km | |||
アンテナ アース | 20km | 30〜40km | 50〜70km | |||
(説明なし) | 20km位 | 30km位 | 60km位 | 80km位 | 日之出電工株式会社 ゲルマニウムラジオ M-702説明書、M-708説明書 | |
(説明なし) | 10km以内 | 10〜15km | 30〜40km | 「トランジスタラジオの作り方」P.210-211 (松尾誠 著、金園社、S38初版 S42第6版) | ||
(説明なし) | ○ 7km △ 10km × 15km | ○ 40km △ 70km × 100km | ファースト電機産業株式会社 ファーストカタログ (1959年東京国際見本市新製品発表記念号) ○は実用になる △はどうやら実用 ×は聞えない |
アンテナ回路が強化されるほど、長距離の受信が可能になっています。受信条件の"説明なし"ですが、過去のデフォルトであった標準アンテナを用いた上で、アースも組合せたと推測されます。標準アンテナとアースの組合せに限ると、受信距離は同じような傾向が見受けられます。確かに出典によって数値は違いますが、これは使用者ごとに受信環境が異なることへの配慮や、部品の性能差、聴力の個人差なども影響して、どれくらいの音量で受信できたと判断するかの違いで、表現のばらつきが発生したものと思われます。
大正時代の資料と比較すると、1kW局の受信距離が低下しています。大正時代とアンテナの想定が異なることもありますが、都市化による雑音と電界減衰率の増加、使用パーツの変化など、歴史的な背景も気になるところです。大正時代の資料をそのまま現代に当てはめるのは、少し無理がありそうです。
さて、2016年1月、GRDSがVersion2.0となり、「波長より短いワイヤーアンテナの実効高」の計算に対応しました。500kHzの波長は600m、2000kHzの波長も150mあるのに対して、過去に標準アンテナと呼ばれていた逆L型アンテナの全長は20mであり、その実効高は6.4mと確認できます。受信距離からその電界強度を推定することで、受信に必要とする平均的な電界強度とアンテナの誘起電圧を周波数別に見積もったものが、次の表になります。
項目 | 1kW局 | 10kW局 | 50kW局 | 平均的な 電界強度 | アンテナの 誘起電圧 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アンテナ、アース による受信距離 | 20km | 30〜40km | 50〜70km | 出典:東電気株式会社 ゲルマニウムラジオG-1型 Catalog No.211 | |||
上記距離で 推定される 電界強度 (mV/m) |
600kHz | 10.38 | 11.58〜18.32 | 9.17〜17.58 | 13.7 | 87 mV | 「1 電界強度の推定」の 項と同条件の推定 |
900kHz | 6.53 | 5.21〜9.66 | 3.24〜7.31 | 6.4 | 41 mV | ||
1200kHz | 3.72 | 2.47〜4.88 | 1.63〜3.38 | 3.2 | 20 mV | ||
1600kHz | 1.81 | 1.27〜2.36 | 0.87〜1.77 | 1.6 | 10 mV |
そもそも、昭和時代の資料は周波数別の概念がないのですが、あえて分類することで得られた平均的な電界強度の下限は、「電界強度別による受信可能なラジオの分類」の項で示した「中電界 2mV/m以上」を前後するものになりました。中電界で受信可能なラジオについて「鉱石ラジオではかろうじて」と評価されております。
したがって、受信要件として「中電界において標準アンテナに誘起される電圧を得られることが、ワイヤーアンテナ型ゲルマラジオにおける受信条件の目安になるだろう」と考えられます。この仮説によれば誘起電圧は12.8mVになりますが、目安ですから13mVとして扱ってもよいでしょう。
3 平成時代の資料
ゲルマラジオの一種である傘ラジオですが、この製作テキスト[1]がネット上で公開されています。この中で、東京都八王子市椚田町における受信状況について、共立電子工業KFI-3301で測定した電界強度のデータを添えて発表されています。傘ラジオはループアンテナ型の構造を有しており、巻数Nと断面積Sの積であるNSの数値例が掲載されていることから、アンテナの実効長(性能を表す指標の1つ。詳細後述。)とアンテナ回路に誘起される電圧を計算してみました。以上の情報を合わせたものが、次の表になります。
放送局 | 所在地 | 周波数 | 送信出力 | 距離 | 受信電界強度 | 実効長 | 誘起電圧 | 受信状況 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
NHK第1 | 埼玉県久喜市菖蒲町 | 594kHz | 300kW | 56km | 35.9mV/m | 0.0465m | 1.669mV | よく聞こえる |
NHK第2 | 693kHz | 500kW | 56km | 33.1mV/m | 0.0542m | 1.794mV | よく聞こえる | |
AFN | 埼玉県和光市 | 810kHz | 50kW | 32km | 55.0mV/m | 0.0634m | 3.487mV | よく聞こえる |
TBSラジオ | 埼玉県戸田市 | 954kHz | 100kW | 37km | 14.1mV/m | 0.0747m | 1.053mV | 小さく聞こえる |
文化放送 | 埼玉県川口市 | 1134kHz | 100kW | 46km | 2.37mV/m | 0.0888m | 0.210mV | 聞こえない |
ニッポン放送 | 千葉県木更津市 | 1242kHz | 100kW | 69km | 5.56mV/m | 0.0973m | 0.541mV | 聞こえない |
ラジオ日本 | 神奈川県川崎市 | 1422kHz | 50kW | 38km | 3.00mV/m | 0.1114m | 0.334mV | 聞こえない |
出典[1] 2012年度版傘ラジオ製作テキスト「日用品でラジオを作ろう!!「傘ラジオ」」 http://www.kasaradio.com/ksrd01/ksrd2012.pdf から引用、一部追記。
一般に、送信出力が大きいほど、受信距離が短いほど、電界強度は強くなります。しかし、NHK第1と第2は同じ距離なのに、出力が大きい第2の電界強度が弱いです。また、文化放送とニッポン放送は同じ100kW局なのに、距離が長いニッポン放送の電界強度が強いです。送信出力と受信距離だけで電界強度を決定するには、パラメータが不足していることを示唆しています。
表の誘起電圧に、同調回路のQによる昇圧とダイオードの順方向電圧による電圧降下を含めて考えると、イヤホンに出力される電圧に辿りつきますが、これは別の機会に考えることにします。傘ラジオは、タップダウンせずに検波回路を同調回路と接続し、ゲルマニウムダイオード1本とセラミックイヤホンの使用が標準的な構成です。このようなゲルマラジオの場合、ループアンテナに誘起される電圧が、1.6mVもあれば良く聞こえる、1mVだと小さく聞こえる、0.5mVでは聞こえない、と考えられます。
部品性能や回路構成にも左右されますが、受信要件として「ループアンテナで1mV以上の電圧を誘起する必要がある」と仮説を立てることができます。傘ラジオから得られるデータでは、受信限界となる閾値は0.5〜1mVの間に存在すると判断されますが、現時点でこれ以上の検討は困難であることや、聴取のしやすさに余裕を持たせるため、ここでの仮説は1mVを採用します。
推定されるゲルマラジオの受信距離
ここまで得られた知見を基に、ゲルマラジオの受信距離を推定します。
1 ワイヤーアンテナ型ゲルマラジオで推定される受信距離
ワイヤーアンテナ型ゲルマラジオにおいて、推定されるな受信距離を次の表に示します。ワイヤーアンテナ型の場合は、
(電界強度)×(アンテナの実効高) ≧ 13 [mV]
が目安になります。
ゲルマラジオ | 周波数 | 実効高 | 必要な電界強度 | 1kW局 | 5kW局 | 10kW局 | 50kW局 | 100kW局 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全長6m 逆L型アンテナ 垂直部3m、水平部3m |
600kHz | 2.2 m | 5.9 mV/m | 29km位 | 48km位 | 58km位 | 85km位 | 99km位 |
900kHz | 21km位 | 32km位 | 37km位 | 54km位 | 62km位 | |||
1200kHz | 16km位 | 23km位 | 27km位 | 38km位 | 45km位 | |||
1600kHz | 11km位 | 17km位 | 19km位 | 28km位 | 33km位 | |||
全長12m 逆L型アンテナ 垂直部6m、水平部6m |
600kHz | 4.5 m | 2.9 mV/m | 45km位 | 70km位 | 82km位 | 118km位 | 135km位 |
900kHz | 30km位 | 44km位 | 52km位 | 73km位 | 85km位 | |||
1200kHz | 22km位 | 32km位 | 37km位 | 53km位 | 62km位 | |||
1600kHz | 16km位 | 23km位 | 27km位 | 39km位 | 46km位 | |||
全長20m 標準アンテナ 垂直部8m、水平部12m |
600kHz | 6.4 m | 2.0 mV/m | 56km位 | 83km位 | 96km位 | 137km位 | 159km位 |
900kHz | 36km位 | 52km位 | 60km位 | 86km位 | 101km位 | |||
1200kHz | 26km位 | 37km位 | 44km位 | 63km位 | 74km位 | |||
1600kHz | 19km位 | 27km位 | 32km位 | 47km位 | 55km位 |
上記表では標準アンテナのほか、全長6mと12mのアンテナによる理論値を掲載しましたが、概ね1階建て、2階建ての高さによる逆L型をイメージしたもので、特に深い意味はありません。
実際に受信できる限界の距離は、電波伝搬やアースの具合、周囲の環境も含めたアンテナの設置条件、コイルのQなどゲルマラジオ本体の周波数特性等にも左右されることは言うまでもありません。また、逆L型は指向性があるため、設置方向が悪ければ受信性能を落とします。「中波ラジオ局による説明」の項において、ラジオ局が発表している電界強度マップの2mV/mラインは、アース付きで標準アンテナを用いたゲルマラジオにおける受信距離に該当すると期待できます。
なお、この表も電界強度のグラフと同様に、推奨する受信距離の適用最大値(600kHzで95km、900kHzで83km、1200kHzで75km、1600kHzで68kmが目安)が存在し、推奨値以上は受信距離を短く見積もるべきです。
2 ループアンテナ型ゲルマラジオで推定される受信距離
アンテナの実効長が求めやすいループアンテナ型ゲルマラジオにおいて、推定されるな受信距離を次の表に示します。ループアンテナ型の場合は、
(電界強度)×(アンテナの実効長) ≧ 1 [mV]
が目安になります。
ゲルマラジオ | 周波数 | 実効長 | 必要な電界強度 | 1kW局 | 5kW局 | 10kW局 | 50kW局 | 100kW局 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ループアンテナ・ゲルマラジオ 0.32m×0.32m(小型密巻き) 10回巻き |
600kHz | 0.013 m | 76.9 mV/m | 4km位 | 8km位 | 10km位 | 19km位 | 25km位 |
900kHz | 0.019 m | 52.6 mV/m | 5km位 | 9km位 | 11km位 | 19km位 | 22km位 | |
1200kHz | 0.026 m | 38.5 mV/m | 5km位 | 9km位 | 11km位 | 17km位 | 20km位 | |
1600kHz | 0.034 m | 29.4 mV/m | 5km位 | 8km位 | 9km位 | 14km位 | 16km位 | |
ループアンテナ・ゲルマラジオ 0.63m×0.63m(大型密巻き) 7回巻き |
600kHz | 0.035 m | 28.6 mV/m | 9km位 | 17km位 | 22km位 | 37km位 | 46km位 |
900kHz | 0.052 m | 19.2 mV/m | 10km位 | 17km位 | 21km位 | 32km位 | 37km位 | |
1200kHz | 0.070 m | 14.3 mV/m | 10km位 | 15km位 | 18km位 | 26km位 | 31km位 | |
1600kHz | 0.093 m | 10.7 mV/m | 9km位 | 13km位 | 15km位 | 22km位 | 25km位 | |
壁ループ・ゲルマラジオ 2.5m×3.5m 3回巻き |
600kHz | 0.33 m | 3.0 mV/m | 45km位 | 68km位 | 81km位 | 116km位 | 134km位 |
900kHz | 0.495 m | 2.0 mV/m | 37km位 | 53km位 | 61km位 | 86km位 | 101km位 | |
1200kHz | 0.66 m | 1.5 mV/m | 30km位 | 43km位 | 50km位 | 73km位 | 85km位 | |
1600kHz | 0.88 m | 1.1 mV/m | 25km位 | 36km位 | 43km位 | 62km位 | 73km位 |
平野を想定した受信距離ですが、地元5kW局だけの個人的な経験内では「当たらずとも遠からず」と思わせる数値になりました。壁ループ・ゲルマラジオは高感度で受信距離も長いですが、壁面に取り付ける構造ではループを回転させて最善の受信状態にすることができません。管理人CRLは宝の持ち腐れになっています。
同じ送信出力でも、600kHzと1600kHzを比較すると、受信距離はかなり違います。昭和時代の資料における受信距離の表現では、このあたりの事情が分からず、説明不足だと言えます。
なお、この表も電界強度のグラフと同様に、推奨する受信距離の適用最大値(600kHzで95km、900kHzで83km、1200kHzで75km、1600kHzで68kmが目安)が存在し、推奨値以上は受信距離を短く見積もるべきです。
この理論値がどれだけ現実に当てはまるのか、気になるところです。特に大地の比誘電率、導電率は少し違うだけでも、電波の減衰に影響を与えますし、送信アンテナから受信地までの伝播路状況など、受信条件は各人で異なります。これらの値を完璧に掌握できる方法があれば、確度の向上が期待できます。また、仮説の「1mV」について、イヤホンの出力電圧も併せた考察に発展させたいところです。
3 電界強度とゲルマラジオの受信関係
電界強度別に考えた時、どのようなアンテナを使用するゲルマラジオであれば受信できるのか、整理した結果が以下の表です。持ち運びが容易なループサイズのゲルマラジオによるイヤホン受信は、強電界においてのみ可能であると、改めて確認することができました。受信距離を突き合わせて考えると、標準アンテナの受信性能は、壁ループ・ゲルマラジオを超えるものと推定されます。
区域 | 電界強度 | 受信条件を満たすアンテナ、ゲルマラジオの例 | |
---|---|---|---|
高雑音区域 | 強電界 | 10mV/m以上 | 傘ラジオ、ループアンテナ・ゲルマラジオ(0.63m×0.63m) |
中雑音区域 | 中電界 | 2mV/m以上 | 標準アンテナ、壁ループ・ゲルマラジオ(2.5m×3.5m) |
低雑音区域 (0.25mV/m以上) | 弱電界 | 0.5mV/m以上 | |
微電界 | 0.1mV/m以上 | λ/4垂直アンテナ | |
極微電界 | 0.02mV/m以上 |
それともう1つ、微電界でもゲルマラジオで受信できることを、理論的に説明することができました。法定上の放送区域0.25mV/mと同程度です。λ/4垂直アンテナの受信性能は圧巻ですが、その高さは1500kHz受信で50m、600kHz受信で125mになります・・・・・放送局のアンテナと同じ規模ですね・・・・・。
以上、ループアンテナ型は平成時代の資料をもとに、λ/4より短く共振していないワイヤーアンテナについては昭和時代の資料をもとに、それぞれ受信距離の推定方法を検討してみました。入手している資料数が少なく、その解釈も推論を重ねるなど、検討の甘さが散見される点は、今後の課題とします。